主な疾患と治療法
肺がんの手術
肺の手術は疾患の種類や進行度、病変のある場所、全身状態などさまざまな要因によって、行う術式が異なります。肺は切除した分だけ小さくなり再生することはありませんが、残存した肺が位置を変えてより大きく膨らむこともあります。肺の膨らむ程度は、もともとの肺の状態と術後のリハビリの努力次第で変わってきます。
標準術式(手術法)は片側の肺の1/3から1/2を切除する肺葉切除術です。それ以外では、がんの広がりによっては片側の肺をすべて切除する肺全摘術や、腫瘍の大きさ、性質や状態によっては、肺葉の一部を切除する区域切除、部分切除などの縮小手術を行うこともあります。
当科での肺葉切除は患者様の手術侵襲を小さくするため胸腔鏡を中心に行っています。腔鏡手術はメリットとして手術創が小さいため手術後の疼痛が軽くなること、手術からの回復が早く、入院期間が短縮されることなどがあります。また、肺がんの手術をすると、肺の一部を切りとるために、どうしても肺活量などの呼吸機能が手術前より悪くなるのですが、胸腔鏡下手術では従来の開胸の手術に較べて呼吸にかかわる筋肉の損傷が少ないため機能低下が軽くなります。胸腔鏡手術は一般的にはモニター画面を補助的に使いながら術者が10cm程度の傷から胸腔内を直視して手術を行う『胸腔鏡補助下手術』が行われていますが当科の胸腔鏡手術はモニター画面のみを見て手術を遂行する『完全胸腔鏡手術』で行っています。モニター画像は直視するより20倍ほど拡大できますので繊細で高精度の手術が可能になります。また肺を摘出するのに必要最小限の2.5cm傷と1cmの穴3か所で手術を行うことができます。患者様の回復も早いため術後7、8日で退院となります。
ダヴィンチ手術
当科は最新の「da Vinci サージカルシステム」を導入し肺がん手術を行っています。
低侵襲ロボット支援手術の特長は
- 体への負担が少ない:数カ所の小さな切開部から手術を行うため、傷が小さく、出血も抑えられ、手術後の回復が早く、患者さんの負担が軽減されます。
- 鮮明な3D(3次元)画像 :コンソールモニターには高画質で立体的な3Dハイビジョンシステムの手術画像が映し出されます。
- 精密な動きを再現
医師がロボットアームに装着されている鉗子やメスを操作します。
ダビンチの鉗子はリスト構造を持ち、人間の手より大きな可動域と手ぶれ補正機能を備えています。
以上のように従来の胸腔鏡手術と比べ、より精緻で自然な手術操作が可能になりました。
転移性肺がん
肺から発生した「原発性肺がん」に対して「転移性肺がん」は乳がんや大腸がんなど他の臓器に発生したがんが肺に転移したもののことです。
手術は肺部分切除や区域切除が行われることが多いのですが、がんの位置によっては肺葉切除が行われることもあります。
手術は胸腔鏡下に3か所の穴で行われ、部分切除の場合は術後4日程度で退院となります。
縦隔腫瘍
縦隔(じゅうかく)とは左右の肺の間に位置する部分のことを指しており、心臓、大血管、気管、食道、胸腺などの臓器があります。縦隔腫瘍とは、これらの縦隔内臓器に発生した腫瘍の総称です。発生年齢は小児から高齢者まで幅広く、また悪性のものもあれば良性のものもあります。
縦隔腫瘍は比較的まれな腫瘍です。その多くは無症状であり、約半数は胸部エックス線やCT検査で偶然発見されます。 縦隔腫瘍は胸腺腫がもっと多く、のう胞、神経原生腫瘍などが続きます。悪性度の高い腫瘍では、胚細胞性腫瘍、胸腺がん、悪性リンパ腫などがあります。
治療は切除可能であれば手術を、切除不能であれば放射線治療や化学療法が行われます。
手術は当科ではロボットを使用し胸に3~4か所の穴を開けて切除します。腫瘍が悪性であり、血管の浸潤がありそうな場合は胸骨を切開し手術を行います。
気胸
気胸(ききょう)とは肺から空気がもれて、肺がつぶれてしまう状態をいいます。
気胸で一番多いのが『自然気胸で』10歳代後半から30歳代に多く、やせて胸の薄い男性に多く発生します。肺の一部が「ブラ」と呼ばれる壁の薄い風船様になり、これが破裂し穴が開きます。肺気腫、肺がん、肺線維症など、何か肺の病気があり、これが原因となって起こる気胸を『続発性気胸』といいます。続発性気胸はもともと肺がもろくてなる病気のため治療に時間がかかることが多いです。交通事故や転倒で肋骨が折れて、肺に刺さると気胸を起こします。このように起きた気胸を『外傷性気胸』と呼びます。
治療は気胸の状態により様々で、手術で肺の穴をふさいだり、胸に管を入れるドレナージと呼ばれる処置を行ったりします。一般的に自然気胸は手術を行うことが多く、胸腔鏡下にブラを切除します。当科では細径の3mmカメラを使用し、その他2か所1㎝の穴を開けて手術をします。手術時間は40分程度で手術後3日程度で退院となります。