感染対策室

院内感染対策に対する取り組み

Ⅰ.医療関連感染に関する基本的な考え方

医療関連感染とは、医療施設などで患者さんがもともとの病気とは別に新しくかかった感染症や、医療従事者や職員などが医療施設の中で感染した感染症のことをいいます。院内感染や病院感染ともいわれますが、医療施設だけでなく在宅ケアでの感染を含めて医療関連感染という言葉を使うのが一般的です。
感染症は人の身体に常在する微生物が身体の中に入ってきても全てが問題となるわけではないですが、抵抗力や免疫力が低下している患者さんにとっては問題となってくることがあります。医療関連感染を未然に防止するとともに拡大防止のために感染症の発生時には速やかな原因の特定と制圧、終息が重要になります。院内感染対策は単に感染症対策だけではなく、病院内における患者さんと職員を守る医療安全対策とも深く関連しています。そのため全職員が院内感染防止対策を把握し、安全な医療の提供を行うために院内感染対策の取り組みを行っています。

Ⅱ.院内感染対策に関する取り組み事項

【院内感染対策の組織に関する事項】
感染対策に関する院内全体の問題点を把握し、改善策を講じるなどの院内感染対策活動の中心的役割をになうために病院長直轄の組織横断的な『院内感染対策委員会』を設置しています。委員会は月1回以上、または必要時に随時開催します。
さらに実動部隊として『ICT(感染対策チーム)』と『AST(抗菌薬適正使用支援チーム)』を設置し、週1回以上の院内ラウンドを行い、感染関連の問題への迅速な対応や抗菌薬適正使用に向けての活動を行っています。

●『ICT(感染対策チーム)について』
ICT(感染対策チーム)とはインフェクションコントロールチーム(Infection Control Team)の略称で、院内で起こる様々な感染症から患者・家族、職員、病院に関わる全ての人々の安全を守るために活動を行う組織です。医師・看護師・薬剤師・臨床検査技師の4職種を基本とした様々な職種が集まり、組織横断的に病院全体の感染対策活動に従事しています。1回/週以上の院内ラウンドや1回/月のICT会議で感染対策に関する報告や協議を行っています。

●『AST(抗菌薬適正使用支援チーム)について』
抗菌薬適正使用支援チームはAntimicrobial Stewardship Teamの略称からASTと呼ばれ、抗菌薬の不適切な使用や長期間の投与が、薬剤耐性(AMR)微生物を発生あるいは蔓延させる原因となりうるため、その薬剤耐性(AMR)対策として患者さんへの抗菌薬の使用を適切に管理・支援するための実働部隊です。2回/週のASTラウンドを中心に、広域抗菌薬のモニタリングおよび長期間使用患者への診療支援(デ・エスカレーション)や、抗菌薬使用量・使用日数などの定期的な評価、抗菌薬使用指針の作成およびマニュアルの改定、抗菌薬適正使用推進のための教育・研修などを行っています。

(主な活動内容)

1)交差感染を防ぐ取り組みを実施しています
交差感染とは、共有した物品や環境・医療従事者の手指などから微生物が伝播し感染することをいいます。交差感染を防ぐため、手指衛生の徹底、個人防護具(手袋・マスク・エプロンやガウン・ゴーグル等)の正しい着脱、環境清掃の徹底を行います。

2)週1回以上、病院内を巡回して感染対策遵守の確認と指導を行っています
ICT(感染対策チーム)が各部署の感染対策担当者と現場で一緒に対応することで感染症の拡大や重症化防止に対する活動をしています。

3)週2回の感染症症例へのモニタリングと主治医へのフィードバックを行っています。
AST(抗菌薬適正使用支援チーム)が抗菌薬の使用状況の把握から適正使用への提言を行い、不必要な抗菌薬の使用や耐性菌発生などの抑制に努めています。

4)職員研修(年2回以上)を開催しています
基本的には加算要件で規定された適宜研修・年2回開催を中心に状況に合わせた個別研修や臨時研修を追加研修として行っています。研修内容としては手指衛生を軸とした標準予防策の遵守・強化と院内や地域の感染症発生状況を踏まえた研修を実施しています。

5)職員へのワクチン接種を実施しています
職員が感染源にならないように努めています。
・インフルエンザワクチン:毎年実施
・B型肝炎ウイルス、麻疹、風疹、水痘、流行性耳下線炎等のワクチン:入職時実施
※ 必要時、新型コロナウイルスワクチン

6)院内感染発生状況の報告と周知をしています
耐性菌、市中感染症等の発生状況については、微生物検査室・感染管理担当者が収集、分析し感染対策委員会で報告しています。また感染情報レポートは院内メールで全職員へ配信し、病院情報ネットワークも活用しながら全ての職員が閲覧できるようにしています。

7)院内感染の早期発見に努めています
院内感染早期発見のため、微生物検査室は病原体検出情報をモニタリングし異常を発見した場合はICTが介入し対策を行います。またモニタリング結果は感染症情報レポートとして週1回まとめ発信し、かつ感染対策委員会に報告しています。

8)各種サーベイランスの実施について
耐性菌や院内監視菌病原体検出のサーベイランス、抗菌薬使用統計やアンチバイオグラム作成・活用など抗菌薬適正使用への活動を行っています。またカテーテル関連血流感染サーベイランスや手術部位感染対策サーベイランス、手指衛生サーベイランス等も行っています。

9)患者への情報提供と説明に努めています
患者等に対する当該指針の閲覧に関し、当院ホームページの病院感染対策項目の掲載と見直しを行っています。疾病の説明とともに、感染防止の意義および基本手技(手洗い、マスク使用等)について院内各所に掲示とともに説明を適宜行い、実施協力を求めています。

10)地域医療施設との連携について
感染対策向上加算Ⅰ施設として、地域医療施設と感染に関する合同カンファレンスと新興感染症発生等を想定した訓練を開催しています。(4回/年)。また感染に関する相談や指導を行っています。また加算Ⅰ施設や地域施設への施設間ラウンド評価等を行い改善に向けた活動を行っています。

11)院内感染対策の推進について
職員は自ら院内感染源とならないよう、定期健康診断を年1回以上受診し健康管理に留意しています。また感染症の流行状況等により、自身が罹患しないよう留意しています。院内感染防止のため、『院内感染対策マニュアル』を策定し職員は遵守するよう支援しています。マニュアルは年1回程度見直し、必要に応じて改訂しています。

インフェクションコントロールドクター(Infection control doctor:ICD)とは

感染制御ドクターのことで一般的に感染症や感染制御、院内感染対策を専門に取り扱う医療従事者のことをさします。

その役割として
・感染症専門医療の提供
・サーベイランス、疫学、細菌叢調査、院内感染防止などの実施
・感染症に対する教育、啓発
・アウトブレイク防止及び発生時の対応
・薬剤耐性菌の出現と抗菌薬使用に関するモニタリング
・必要があれば医師に抗菌薬の適正使用を助言する役割

などが挙げられます。当院においても、感染対策委員会のリーダーとして医療関連感染防止への貢献は大きく、患者さんが安心して医療を受けられる環境がより一層向上するものと思われます。

感染管理認定看護師(Certified Nurse Infection Control:CNIC)とは

日本看護協会の認定資格で、一定の研修を受けた後に看護協会認定審査に合格し、特定の分野(ここでは感染管理分野)において個人、家族および集団に対して水準の高い看護の実践・看護者への指導・看護者に対する相談の3つの役割を担っています。
また、病院内で発生する感染症の監視と疫学的調査、感染症患者の確認や病院感染に関する情報収集と教育、サーベイランスの実施など多岐にわたる役割を担い、患者さんが安心して医療を受けられる環境構築に努力しています。

抗菌化学療法認定薬剤師

抗菌薬とは細菌を直接殺したり、増殖を抑える薬のことで細菌が原因となる病気の治療にはかかせない薬です。しかし、薬剤耐性菌という抗菌薬が効かない細菌が増加傾向にあります。薬剤耐性菌を作らないためには抗菌薬を正しく使用する必要があり、厚生労働省からも抗菌薬に関わる計画が策定されております。抗菌薬の正しい使用方法を学習し日本化学療法学会より抗菌化学療法認定薬剤師として認定をいただきました。専門性の高い提案を医療従事者へ行うことで細菌が原因となる病気の改善や薬剤耐性菌の抑制に貢献できるよう取り組んでおります。